PNG#04『キムとG』
揉みくちゃの状態から、私をひっぱりだしてくれたのは、クムルロッジのキム。
クムルは現地の言葉で極楽鳥を意味する言葉。
その名の通り、ロッジの周りには沢山の種類の極楽鳥がいるため、クムルロッジは研究者やバードウォッチャーには人気のロッジらしい。
キムはオーナーの奥さんだが、牛耳っているのはほとんどこの人。
土偶のような体型をして、見た目の通り力持ち。
分厚い唇にどぎついピンクの口紅が浮いている。ちょっと守銭奴。
片手で20キロ近い私の荷物を持ちあげ、片手で私を引いて、何か叫びながら、見知らぬおっさん達を蹴散らしてくれた。
この地の女性は本当に頼もしい。
車の近くまで行って落ち着くと、「Mari-!」といってハグしてくれた!
やはり臭いは強烈だが、知らないおっさんの体臭に比べれば、全然平気だった。
いや平気というよりは、おっさんの洗礼で慣れただけかもしれないが……
ただ、キムの壁はここからだ。
キムはロッジの車を使っているため、見た目は立派な車だが、中がひどい。
いわばGの住処。
小型の茶バネのGが、車の中には無数にいる。
人がいると隠れるので、目の前にこそ現れないが、扉を開けると大量の何かがサッと隠れるのが分かる。
荷物の中に入られるとやっかいなので、すべてのフタを固く締める。
ここから戦いは始まっている。
そして助手席に勢いよく座り、まずは座布団の下にいるGをつぶす。
その後キムの目を盗み、足マットを踏みまくる。
車中は笑顔でキムとおしゃべりしながら
足では必死でGをつぶしつつ、振動で威嚇する。
とりあえず動いていると近くには寄ってこない(気がする)。
まあ原因はわかっている。
車の中での飲食、それが全てだ。
キムに限らず、車の中でみんな何か食べている。もちろんゴミは車中か、窓の外にポイ捨て。
かくいう私も車の中でよく生ピーナッツを食べている。土から掘り出したばかりのピーナッツは甘くてとてもおいしい。
食べだしたら止まらない。
いやいや、だからと言ってやはりあのGの数はひどい。
田舎に行くと整備不良の車も多いので
今にも壊れそうなボロボロの車に乗るよりは
全然いいが、Gだけはほんと何とかしてほしい。
ちなみに、キムに迎えに来てもらったが、宿泊先はロッジではない。
私はPNGに自分の村があり、家族がいる。そして自分の家がある。
2006年の初夏に私は初めてPNGに降り立ち、そして彼らと出会った。その時は1週間ほどしかその村に滞在しなかったが、私たちはとても充実した時間を過ごし、私はゲストではなく、村のメンバーになったのである。
空港から村までは、車で1時間半程度。村に着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。